みなさんは、ヤマドリとキジの違いわかりますか?
最近は、キジがずいぶん増えちゃって濃い紫の派手なオスによく目が留まるのですが、
かたやヤマドリのオスはめっきり見かけなくなってしまいました。
メスはどちらも地味な色合いで私にも区別が付かないくらい似ています。
ヤマドリは、そのメスをいくらか大振にして、胴体の3倍もの長い尾羽をピンと伸ばした
ような、それはそれは気品ある鳥です。
もう、ずっと前の話です。
一羽のオスのヤマドリが、3ヶ月ほどの間、毎日のように果樹園に姿を現しては
私たちがいるあいだ中、傍で餌をついばみ、遊んでいたんです。
ものすごくりっぱな尾羽を持ったアイツは、怪我しているらしく片方の足を決して
地面に着けることはありませんでした。餌を採るときはいつもぴょんぴょん跳ねて移動し、
脚立のてっぺんに止まっている姿はまさに風見鶏のようでした。
初めに出てきたのは、まだ残雪の残るリンゴ園で剪定の枝拾いを妻が一人でしていた時
だそうで、すっかり気に入られたらしく二度三度と現れて、人の周りでしばらく餌を
ついばんでは気づかないうちにいなくなってたんだとか。妻のことを、やさしい人と
見たのか、よほど運動音痴と安心してたのか。
私は、そのうちに呼び出せるようにもなりました。
果樹園の端の雑木林に向かって、クルルルー、クッ、クッ、クッ、クウ、クルルルー、
クッ、クッ、クッ、クウ、、、しばらくすると出てくるんです。人からの餌を受け取ることも
なく、ただ人の周りで一人遊びしているんです。そして夕暮れ時、私たちが車に乗り込む
気配を感じると、林に向かって歩き出すんです。そんな姿が、なんとも気高くて、
いじらしくて、いまでも忘れられません。
地面をすっかり草が覆って、りんごの花ももうすぐ咲き出しそうな春になっても
続きました。相変わらず指一本も触らせてはくれませんが、私たちの周り5メートル
くらいがアイツの縄張りのようでした。新梢摘み作業では、脚立の上から摘まれた
りんごの蕾がパラパラ落ちるのをすかさず羽をバタつかせて攻撃して遊んでいたものです。
一生治らないケガを負ったアイツにとって、ここは安心してくつろげる
唯一の居場所だったんだなって思います。
でも、ようやく厳しい冬を乗り切ったと喜んだ季節は、実は別れの季節でした。
いつの日からか、ピタッと姿を見せなくなったアイツは二度と姿を見せることはありませんでした。